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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)2028号 判決 1988年1月22日

控訴人

株式会社ワールド

右代表者代表取締役

畑崎広敏

右訴訟代理人弁護士

山本忠雄

和田徹

右輔佐人弁理士

江口俊夫

被控訴人

株式会社ゴルフプラザワールド(旧商号株式会社ワールドプラザ)

右代表者代表取締役

藤原昌幸

右訴訟代理人弁護士

原田豊

主文

一  原判決を左のとおり変更する。

1  被控訴人はその営業に関し別紙第一目録(一)、(二)(ただし、そのうち左端に配置されている(九)と同一の標章部分を除いた部分)、及び(五)の各表示を使用してはならない。

2  被控訴人は自社の店舗壁面及び道路上にある看板、パンフレット、封筒その他の広告物中の右各表示を抹消せよ。

3  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一  申立て

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は看板、パンフレット、広告物その他の営業表示物件に別紙第一目録(一)ないし(一〇)記載の表示を使用してはならない。

3  被控訴人は自社の店舗及び同店舗道路上に設置されている看板並びに同店舗において使用するパンフレット広告物その他の営業表示物件から「ワールド」という呼称を生ずる文字を抹消せよ。

4  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  3項につき仮執行の宣言

(被控訴人)

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  主張

当事者双方の主張は左のとおり附加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

(控訴人の主張)

1(イ)  控訴人の周知営業表示としては、原審で主張した別紙第二目録(A)の表示(控訴会社商号の要部である片仮名の「ワールド」)のほか同目録(B)の表示(本来の英文の「WORLD」)及び(C)の表示((B)表示と変型Wマークを一体としたもの)を追加し特定する。

(ロ)  また、本件差止請求の対象とする被控訴人の営業表示を別紙第一目録(一)ないし(一〇)のとおり特定する(なお、以下、これらを(A)(B)(C)の表示またはイ号(一)ないし(一〇)の表示と略称する。)。

2  原判決は次の三点において不当である。

(イ) 双方の営業表示の類否の判断が不正確、不可解であり、また右の判断を競争関係の存否と関連させて検討している点も納得できない。

(ロ) 次に、不正競争防止法一条一項二号の要件の一つである「混同」の概念について現実の競争関係の存在が必要であるかのように解している点も不当である。不正競業に関する法意識はわが国経済の目覚しい発展と国際化によつて近時格別に高揚しており、混同概念もこれに伴いできるだけ緩かに解するのが一般的傾向であるのに原判決はこれに逆行し退行しているといわざるをえない。この点に関する学説も「営業主体の混同は両者の表示が類似する程度及び営業内容が共通するその度合に比例して生ずるのは当然であるが、当該営業表示の周知度が高く顧客吸引力が強い場合は必ずしも両者に競争関係が存在しないときにも混同が生じうる。」と解しており、また判例も(1) 香水で著名なシャネル株式会社のラブホテル「シャネル」なる営業表示使用差止請求、(2) ディズニー社のポルノショップ「ポルノランドディズニー」なる営業表示使用差止請求、(3)洋装飾品で著名な「ニナ・リッチ」なる喫茶店の営業表示使用差止請求をすべて肯認している。

(ハ) さらに、二号違反の認定にさいしては不正競争の目的(故意)は要件とされていないことはいうまでもないが、ただ混同の認定にさいしては表示力の只乗り(フリーライド)の意図、表示力の稀釈化(ダイリュージョン)の影響をも考慮し、「広義の混同」を前提として検討するのが同種問題に関する英米法との対比上も当然とされているところ、原判決はこの点を全く考慮していない。被控訴人(当時の商号は「株式会社ワールドプラザ」)は、控訴人が大々的にスポーツ関連衣料販売に乗り出した直後に、大阪国際空港近辺に店舗を開設し、例えばイ号(一)のように「WORLD」の部分のみが目立つように特段に顕著な使用法を用いて営業表示をしたうえ、「新聞を読まないから控訴会社の存在は知らなかつた。」と強弁しているのであつて、フリーライドの意図が明白である。

(被控訴人の主張)

1 控訴人の自社使用営業表示に関する主張は必ずしも正確でない。すなわち、被控訴人使用の営業表示は(A)(B)(C)の表示と同時に「GRAND FASHION」とか「CO. LTD」とかの表示とが一体として使用されている。

また、その周知性については否認する。そもそも「ワールド」というのは世界を意味する普通名詞であつて、何ら控訴人固有または創作にかかる名詞ではない。ダンスホール、パチンコ屋、サラ金営業等でもしばしば使用されている表示であつて、その自他識別力自体ないに等しい。最近でもダイエーが大型集客施設として「神戸ワールド」を企画中とのことである(乙第一二号証)。

控訴人は自社を有名大企業と思い込みすぎている。控訴人が知られているのはせいぜい「神戸の婦人服卸売会社」としてである。

2  次に、被控訴人の営業表示使用状況は以下のとおりである。すなわち、イ号の(一)は店舗表壁面に使用している(甲第三〇号証の二)。(二)は封筒に使用している。ただし、「あなたのゴルフを考える店」「株式会社ゴルフプラザワールド」と一体として記載している。(三)は使用している(ただし、白抜きではない。)が、単独使用でない(甲第三〇号証の四)。(四)も使用しているが、「ゴルフワールド」として一体使用している(甲第三〇号証の二)。(五)はゴルフ業界紙の広告などに使用することがある(ただし、白抜きでない。)。(六)は使用していない(ただし、両側の「ゴルフ」と「ワールド」を除いた中央部分の絵柄は使用している。甲第三〇号証の一、二)。(七)及び(八)はかつて昭和五八、九年頃捨て看板として使用したことはあるが、現在は使用せず、また将来使用の意図もない。(九)はゴルフクラブや印刷物に使用している。(一〇)は屋上看板として使用している(甲第三〇号証の一ないし三、第四四号証の一)。

3  また、双方の営業表示に類似性がないことも原審で主張したとおりである。

被控訴人使用の各イ号表示はすべて一見してゴルフ店の営業表示であることを表わす表示と一体として使用しているから類似性は問題とならないものである。

4  さらに、以上の次第であるから、双方混同のおそれも全くない。控訴人はもともと婦人服卸売を独特の方法とルートで行なつてきたものであり、その後に始めたという小売りも子会社「リザ」の名で行い、またその商品も「ドルチェ」「ディマジオ」「スラセンジャー」「ヴォクセル」等有名商標(ブランド)を附しており、被控訴人のようなゴルフ用品専門の、しかも直接一般消費者を対象とする小売営業と混同されるはずもない。また、それゆえ被控訴人にはフリーライドの意図も全くない。

(原判決の附加訂正)<省略>

理由

第一控訴人の営業表示とその周知性について

1  当裁判所も、控訴人はおそくとも昭和五二年頃から自社の営業表示として(A)の表示(自社商号「株式会社ワールド」の要部である「ワールド」なる表示)はもちろん、(B)の表示(「ワールド」を本来の英文で表わした表示)及び(C)の表示((B)の表示にアルファベットのWを変形図案化したマークを組合わせた表示)を使用し現在にいたつており、右各営業表示はおそくとも被控訴会社が設立(成立に争いない甲第三号証により昭和五六年一一月三〇日であつたことが認められる。)以前の段階ですでに婦人服はもとより紳士服、スポーツ衣料、カジュアル衣料等を卸売しかつ小売りする会社の営業表示として関西ことに阪神地区を中心とした国内において広く知られ周知となつていたと認めるものであつて、その理由とするところは次のとおり附加訂正するほかは、原判決五枚目裏一一行目の「成立に争いない」から同六枚目裏一一行目まで、及び同七枚目表五行目の「前出」から同八枚目表六行目までの証拠によつて認められる同裏三行目の「原告は」から同九枚目表一二行目の「まつている。」までのとおりであるからこれをここに引用する。

(1)  右引用にかかる認定事実を支持する証拠として当審証人木口衛の証言及び弁論の全趣旨を附加する。

(2)  原判決六枚目表六行目の「商号である」から同七行目の「使用している。」までを「その設立当初から自社の商号『株武会社ワールド』の要部である(A)の表示(片仮名の『ワールド』)を使用するとともに昭和五二年頃からは(B)の表示(本来の英文の『WORLD』)及び(C)の表示((B)表示と変型Wマークを一体として使用するもの)を使用し各種の手段(建物の壁面、業界紙、パンフレット、商品のタック等々)で普及させてきた。右商号ひいては営業表示の選定は『ナショナル』を営業表示ないし商品表示として電気機器の製造販売業者として大企業となつた松下電器産業に負けずに、さらに気宇広大なものにしようとしたことに由来するものであつた。」と訂正する。

(3)  原判決九枚目表一二行目の「まつている。」を「まつていたが、以上のようないわゆる有名ブランド商品の販売にも力を入れたため、原告会社自体ひいてはその営業表示も次第に高級衣料及びその関連商品(アパレル一般)の販売会社としてのイメージを具有するようになつた。」と訂正する。

2  のみならず、成立に争いない甲第一四号証の一ないし二四、第一六号証、第一九号証の一、二、第四二号証の一ないし九、前掲証人木口衛の証言によつて真正に成立したと認める同第三三号証の一ないし四、第三四、第三五、第三七、第四〇、第四一号証の各一、二、第三六、第三八、第三九号証に右証人の証言を総合すると、控訴会社はその後も前記各営業表示ことに(C)の表示を全国的規模の各種スポーツ行事のさいのテレビ放映を意図した看板、東京銀座四丁目角のビル上等に使用し、また神戸市のポートアイランドにワールド記念体育館を建立する等して普及させ、さらには、自社も前記各営業表示を使用したユニフォームを着る全国社会人ラグビーチーム「ワールド」を保有し、宣伝活動の一環とし、またその社業も格段の隆盛をみるようになり、現在では繊維二次製品製造販売業者としてレナウン、オンワード等と並び称せられる我が国屈指の業者に成長し、多数の直販子会社グループを除く直営の業務に関してだけでも年商約一四〇〇億円、社員約二八〇〇名をようする状況となつていることが認められ、右認定事実によれば、前記各営業表示は現在では当業界の取引上はもとより一般の需要者にとつても周知であるのはもちろん、これを超えて著名表示ともなつていると認めうるところである。

3 もつとも、前掲証拠によれば、控訴会社は右各営業表示の使用にさいし「株式会社」「CO.」「LTD」等の文字や「GRAND FASHION」なる文字を附して使用している場合もあることが認められること被控訴人主張のとおりであるが、前者は株式会社を意味するにすぎず、また後者も高級衣料を意味する普通の修辞にすぎないから、右事実だけで控訴人使用の各営業表示の表示としての独自性ないし特定性を左右することはできない。

4  また、被控訴人は、控訴人の各営業表示はその全部または主要部分が「世界」を意味する英語の普通名詞にすぎない旨主張し、そのこと自体は当裁判所にも顕著な事実である。しかし、邦語の「世界」を営業表示とした場合は暫らくおき、我が国内において「ワールド」ないし「WORLD」なる片仮名ないし英語を営業表示とするときは、その外観や呼称した場合の音韻等の点において必ずしも個別の営業を表わす呼称としての特定表示力を有しないとはいい難い(前記認定の「ナショナル」または「Nation-al」の営業表示または商品表示参照。また、現に被控訴会社自身も「ワールド」を要部とする商号を登記し使用しているところである。なお、被控訴会社の商号中の「ゴルフ」「プラザ」の部分は特定営業種目ないし「チェーンストア」「ショッピングモール」等と同じように店舗一般を表わす一般的名称と認められるからこれを商号ないし営業表示の要部と解することは困難である。)。

のみならず、控訴会社の本件各営業表示は、前示のとおり、現在では単に周知表示であるほか著名表示ともいいうるものであるから、その表示自体は単純ではあるが、すでに自社の営業表示として相応に二次的意義を定着させ(いわゆるセカンダリー・ミーニング)、営業表示として十分に自他識別力ないし表示力を有し、顧客吸引力を有しているものと解されるところである。

したがつて、被控訴人の前記表示力がない旨の主張は採用し難く、また控訴人の営業表示につき不正競争防止法二条一項二号の慣用名称を云々することができないこともいうまでもない。

第二被控訴人使用の営業表示について

1  被控訴人が現在自社の営業表示としてイ号の(一)ないし(五)、(九)、(一〇)の各表示を使用していることは当事者間に争いがない。

もつとも、(一)の表示については、成立に争いない甲第一一号証の三、同第三〇号証の四、乙第一三号証によると被控訴会社は場合によりその上段下段の二行に納める表示方式を横一列一行に並べて使用していることが認められるが、いまこれを全体的に観察し営業表示としての一体性如何という見地からすれば法律上両者を区別すべき必要と実益はないと解される。

(二)の表示については、被控訴人は「あなたのゴルフを考える店」なる文字及び自社の商号と一体使用している旨主張し、当審における被控訴会社代表者本人尋問の結果によつて真正に成立したと認める乙第一六号証(被控訴会社が特約店として奥書しているゴルフクラブのカタログ)には(二)の表示とこれらの文字及び商号が併記併用されていることが認められるが、前同様の見地からすればこれらを一体として一個の営業表示と解することは困難である。かえつて、(二)の表示については、そのうち左端に配されている図型と文字が合体されている部分(マーク部分)は控訴人もイ号の(九)の表示として独立した一個の営業表示と解しているところであり、かつ、(二)の表示中その余の右の部分の表示がアルファベット文字を横並びにしたものであつて、これと前記左端のマーク部分の表示とを一体と解さなければならないほどの必然性はないから、以下、(二)の表示は右マーク部分を除外して検討するのが相当である(そして、以下これを(二)'の表示という。)。

また、(三)及び(四)の表示の使用に関する被控訴人の認否は正確には部分的自白をしているにすぎず全体としては理由付きの否認をしているものと解すべきであり、現に成立に争いない甲第三〇号証の四及び二によれば、被控訴人は、(三)の表示については(一)または(二)の表示の一部として、(四)の表示については(一〇)の表示の一部として使用していることが認められ、他に(三)及び(四)の表示を独立して使用していることを裏付ける確証はないから、結局、(三)及び(四)の表示については、その余の判断をするまでもなく、いずれも一個の営業表示としてその類否を検討するのは相当でないと考える。

(五)の表示については、被控訴人は文字を白抜きしたものは使用していない旨附言しているが、いずれにしても、白抜きか否かは本件の類否判断に影響しないと解するから右主張は採用しない。

2  次に、明らかに争いのあるイ号(六)の表示使用の有無についてみるに、成立に争いない甲第二八号証の九によれば被控訴人が路上の看板に(六)の表示を使用している例が唯一つ認められるが、成立に争いない甲第三〇号証の一ないし三、乙第一八、第一九号証に当審における被控訴会社代表者本人尋問の結果を総合すると、右は現在使用しておらず、また将来使用の意図もなく、かえつて、現在の新社屋(被控訴人は昭和六二年春旧社屋を転売し、その南約二〇〇メートルのところに移転したもの)壁面には(六)の表示中両側の「ゴルフ」「ワールド」を除いた中央の図案等のみを掲げており、しかも右中央の図案等は被控訴人が取り扱つているゴルフウエア商品のトップメーカーであるブラック&ホワイトスポーツウエア株式会社の営業表示ないし商品表示であることが認められる。

また、(七)及び(八)の表示についても、成立に争いない甲第一三号証の一ないし七、第二八号証の二、三及び前掲被控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、被控訴人はかつて右各表示をいわゆる使い捨て布製立看板として使用したことはあるが、右は一時的なものでその後は使用せず、また今後使用の意図もないことが認められる。

3 以上のとおりであるから、結局、本件において使用差止の対象としてその類否等を検討すべき被控訴人の営業表示はイ号の(一)、(二)'、(五)、(一〇)となる。

第三両者の類否について

1  まず、控訴人の周知著名表示である(A)、(B)、(C)の各営業表示またはその要部が片仮名の「ワールド」、英文の「WORLD」なる文字によつて構成されていることは多言を要しないところである。

2 次に、これに被控訴人使用のイ号(一)、(二)'、(五)の各営業表示を対比するに、(一)、(二)'は英文の「GOLF PLAZA WORLD」、(五)は片仮名の「ゴルフプラザワールド」の各文字によつてそれぞれ構成されているところ、右のうち「GOLF PLAZA」及び「ゴルフプラザ」の部分はいずれも単に特定営業種目と一般店舗を表わす一般的名称であるから各営業表示中の要部と解し難く、かえつてその主要部分は「WORLD」及び「ワールド」の部分であると解すべきであることは第一4の第一段末括弧内において説示したとおりである。

したがつて、右イ号の(一)、(二)'、(五)の各要部はその外観、観念、称呼のいずれにおいても前示控訴人の各営業表示の全部または要部と同一であるというほかない。また、右各イ号の外観は、非要部である「GOLF PLAZA」「ゴルフプラザ」の部分の字体の大きさ及び太さを要部である「WORLD」「ワールド」のそれより小さくかつ細くして配しているため、いまこれを取引者及び一般の需要者が全体的、離隔的に観察すると要部である後者が一層目立つものであることも明らかである。

そうすると、右イ号の(一)、(二)'、(五)の各営業表示は全体として控訴人の(A)、(B)、(C)の各営業表示に類似していると解するのが相当である。

(なお、控訴人の弁論の全趣旨によれば、控訴人は被控訴人において「GOLF PLAZA WORLD」または「ゴルフプラザワールド」なる表示を同一の大きさと太さで一体として使用する場合には敢えてその差止めを求めないものであることが窺われる。)。

3 そこで、次に、イ号の(九)の表示の類否についてみるに、右(九)の表示の下の部分に配されている文字「WORLD」が控訴人の(B)、(C)の各営業表示またはその要部と外観、観念、称呼のいずれの点においても同一であることはいうまでもないところである。しかし、右(九)の表示を全体的、離隔的に観察すると、通常、看者の目は一義的には右「WORLD」の部分を除いた上部の図案(地球儀の両側にライオンまたは獅子各一頭がゴルフクラブを口にくわえ、立ち上る姿勢で地球儀を支えている図柄に小さく「OSAKA JAPAN」「GOLF PLAZA」なる英文字を配したもの)に注がれることがその大きさの比較等によつて明白で、現に成立に争いない乙第一ないし三、第九、第一三、第一八号証によつて被控訴人の封筒、パンフレット等における右(九)の表示の使用状況をみても前記「WORLD」の部分がしかく看者の目を魅くものとは認め難い(のみならず、前掲被控訴会社代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨―記録添付の乙第二〇号証の写しその他―を総合すると、右(九)の表示中「WORLD」の部分を除いた図案部分は別紙第三目録記載のとおり被控訴人が指定商品を一七類として出願し公告のうえ昭和六〇年九月二七日に登録された登録商標と同一であることも窺われる。なお、不正競争防止法六条参照)。

以上の点を彼此検討すると、右(九)の表示は、結局、全体としては控訴人の本件各営業表示と非同一はもとより非類似であると解するのが相当である。

4 最後に、イ号の(一〇)の表示の類否についてみるに、右(一〇)の表示中の「ワールド」の部分の観念、称呼が控訴人の本件各営業表示の全部または要部と同一であることはいうまでもない。しかし、右(一〇)の表示の場合は「ゴルフ」の部分と「ワールド」の部分との字数、字体とその大きさ、太さが全く同じ(ただし、字数は正確には三字と四字)であるため、いまこれを全体的、離隔的に観察すると、外観的には両者が同等に目に訴えられてくるものであり、それゆえ、観念のうえでも「ゴルフ専門店である」ワールドという点が前記イ号(一)、(二)'、(五)の場合に比し強く訴えられ、その限度で控訴人の重要視する「ワールド」の表示の印象が稀釈化されているということができる。

このように考えると、右(一〇)の表示の要部が「ワールド」の部分であり、この点において控訴人側営業表示との同一性ないし類似性が認められるからといつて、直ちに全体としてその類似性を肯認することはちゆうちよされるところであり、結局、その類似性はこれを否定するのが相当であると考える。

5 結局、被控訴人の営業表示中その類似性を肯認しうるのはイ号の(一)、(二)'及び(五)の表示であるということができる。

第四混同及び営業上の利益を害されるおそれの存否について

1  前掲証人木口衛の証言に弁論の全趣旨を総合すると前記被控訴人の類似表示が控訴人の営業表示と混同された具体例も存することが認められるほか、両者の営業重点区域が近接していること等に照らすと混同の存在及びこれによる控訴人の営業上の利益を害されるおそれの存在はこれを肯認すべきである(なお、被控訴人の営業経歴、営業場所等については、原判決認定のとおりであつて、―原判決九枚目裏四行目の「成立」から同一〇枚目表七行目の「結果」までに挙示の証拠によつて、同裏九行目から同一一枚目表八行目までの事実を認めることができるからこれをここに引用する。―被控訴人は昭和五七年一〇月以降大阪国際空港に近いところに本店を置き、兵庫県尼崎市と千葉県船橋市にも支店を有するゴルフショップであり、もとよりゴルフクラブ、ボール等のほかゴルフウエア一般もこれを販売しているものである。また、当審における被控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、前記のとおり昭和六二年春本店位置を南二〇〇メートルのところに変更しており、その年商は約四億円であるという。)。

2  被控訴人は、両者の販売方法ルート、顧客、販売商品等の相違を主張して前記混同等の不存在をいうのであるが、上来の説示によれば両者の営業には右に主張のような根本的な相違すなわち営業上の異質性は全体としては認め難く、かえつて同種性が肯認せられ、このことのほか被控訴人使用の類似表示の近似性及び控訴人の本件各営業表示の著名性と顧客吸引力等を考慮すると被控訴人の右主張は認めることができない。

第五補足

以上のほか、被控訴人は他にも「ワールド」の用語を使用した商号ないし営業表示を使用する者が多い旨るる主張し、成立に争いない甲第四五号証の一、二、第四六号証の一ないし六、第四七号証の一ないし四、乙第四、第五、第八、第一二、第一五、第一六号証、様式により真正成立を認める同第一七号証の一ないし六によれば、他にも「ワールドゴルフ株式会社」「株式会社ワールドファイナンス」「株式会社東京ワールドパック」等の商号を有する法人の存することが認めうるのであるが、右のような事実だけで直ちに上来の認定判断を左右することはできないことはいうまでもない。かえつて、右のような事実は「ワールド」または「WORLD」が元は単純な語ではあるが、それなりに営業主体の表示としての自他識別力を有していることを裏付けるものであるといわなければならない。

第六結論

そうすると、控訴人が不正競争防止法一条一項二号に基づき被控訴人に対して求める本件営業表示差止請求はイ号の(一)、(二)'、(五)の表示については理由があるからこれを認容すべきであるが、その余の表示については失当として棄却すべきである。

よつて、一部これと異なる趣旨の原判決は変更を免れず、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官今富滋 裁判官畑郁夫 裁判官遠藤賢治)

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